詩歌 verse

残夜に書を読み、人は未だ臥せず。萬山の明月一声の鐘。深夜に読書し、寝そびれてしまった。山々を明月が照らし、鐘の音が響き渡っています。清の許友 字は介寿 有介 「読書夜静聞鐘聲従白月来」詩の二句。青墨で書き、薄い青墨で染め上げました。
碧玉の甌中 翠濤起こる。碧玉の碗のなかには挽きたての茶の緑の波が立っています。碧(へき)は青みがかった緑色。碧玉(へきぎょく)はジャスパーという鉱物ですが、ここでは緑色の茶碗でしょう。銀箔が散る冷銀箋に、四角い銀箔を押しました。銀箔が玉虫色に輝くのは、硫黄でいぶしてあるためです。范仲淹 北宋の政治家、文人。字は希文。「章岷従事と闘茶するの歌」の一句。
相知る、遠近無し。万里尚鄰と為る。遠く隔たっていても、互いに変わることはありません。万里の隔たりがあるとしても隣にいるのと同じです。張 字は子寿 ユーカリ染めの楮紙に金箔、銀箔を押しました。マットには60年前の大島紬を張ってあります。
灰を漉き込んだ、豊田市の紙作家、加納様の作品にふさわしい歌を選びました。眺むるに慰むことはなけれども月を友にて明かす頃かなともすれば月すむ(澄む 住む)空にあくがるる 心の果てを知るよしもがなあはれとも見る人あらば思はなむ月の表に宿す心を元北面の武士であった西行は、出家後旅の中で歌を作りました。月に誰の面影を見たのか。
桜の幹で紙を染めています。紙にふさわしい詩歌を選びました。桜色に衣は深く染めて着む 花の散りなむ後の形見に(桜色に衣を深く染めて着よう。桜が散った後の形見として)古今集 紀有朋 (「深く」は思いの深さの意と解釈しましょう)始めて識りぬ。春風の機上に巧みなることを。唯だ色を織るのみに非ず。芬芳をも織る。(初めて知りました。春風が機織りの名人であることを。春風はただ素晴らしい色を織りだすだけでなく、香しい香りまでも織り込んでいるのです。)源英明「花飛如錦」の一節。織ることは何れの糸よりぞ、唯だ暮(ゆうべ)の雨。裁つことは定まれる様なし。春の風に任せたり。(散った花弁は色とりどりの色で織った錦のよう
黄景仁(字は仲則)の五言絶句「夜与方仲履飲」(夜、方仲履と飲す)細酌して明月に向かひ  情を含んで柳條に問ふ。 春と人は俱に去らんと欲す。直だ是れ可憐の情。ゆっくり静かに酒を交わし明月に向かい、情を込めて柳の枝に問う。春と人とは共に去ろうとしている。ただこの憐れむべき夜に。阿波の藍染紙に繊細なタッチの篆書で書きました。紙は藤色の阿波紙の上に張り、上下と左に藤色を覗かせました。マットの紺との間のアクセントにしています。マットには、粋な大島紬の泥染。
李白の詩「送殷淑」より「相看不忍別 更進手中杯」相い看て別るるに忍びず。更に手中の杯を進めん。互いに逢うと別れが惜しい。手にした杯を更に飲み進めよう。李白61歳。金陵で交友を深めた殷淑との友情を詠んだ詩。阿波の藍染紙に篆書体で書きました。マットには20回以上も染めた深い藍染を使いました。
「不知今夜月 曾動幾人情」この月はこれまでにどれほどの人の心を動かしたことでしょうか。宋の翁霊舒の詩の一節。落款の右側に楷書体の白抜き文字を入れました。紙は青墨で染めています。マットには鰹縞の着物を使い、作品を引き締めています。
「置身星月上 濯魄水煙中」身を星月の上に置き、魂を水煙の中で洗う。明の鍾惺「宿虎嘯岩」(虎嘯岩に宿す)の一節。虎嘯岩は風が吹き抜けると虎が吠えるように響くところだそうです。2008年の四川汶川大地震で打撃を受けました。鍾惺の詩は、自然の中で厳しく自身を見つめる雰囲気があります。清冽な水のほとばしりを、白抜きで表現しました。青墨で紙を染めています。マットには鰹縞の着物。額縁はオールドオリーブです。
昔より 幾情けをか映し見る いつもの空に いつもなる月伏見帝の中宮、永福門院の歌。
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